AI-A●『The Hand / 手』 

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● The Hand / 手
監督:Anoushiravan Haddad
イラン / ドラマ / 2004 / ‘12”13

息子の誕生を切望し続ける男に、3人目の娘が生まれた。失望した男は、息子を授けてくれなければ片方しかない腕を切り落とすと神に訴える。果たして彼は息子に恵まれるのか?

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『イスラムの世界』

周囲に励まされながら出産する妻。そして、赤ちゃんの産声と共に浮かべる切ない表情。そんな印象的なシーンから始まる「The Hand / 手」では、片腕の夫が自分の支えとなる「息子」の誕生を切望するという、イランのある家族の様子が描かれています。でも、どうしてそんなに「息子」にこだわるのでしょうか?どうやら、そこには宗教的な背景も影響しているようです。

イランの正式名称は、イラン・イスラム共和国。その国名からも推測できるように、国民のほとんどがイスラム教を信仰しています。イスラム教とは、7世紀初めにアラビアでムハンマドが創唱した宗教で、神(アッラー)からの啓示の記録とされるコーランが聖典です。

イスラム教信者のことを「ムスリム」といい、ムスリムには「六信五行(ろくしんごぎょう)」という義務があります。六信とは、信じなければならない6つのこと。「神・天使・啓典・預言者・来世・天命」を指します。また五行とは、ムスリムが行わなければならない5つのこと。「信仰告白・礼拝(1日5回)・断食・喜捨・メッカ(聖地)への巡礼」を指します。

その他にも、イスラム教には様々な戒律があり、男性が優位とみなされるものも少なくありません。中でも有名なのが一夫多妻制。男性は平等に愛することを条件に、なんと4人まで妻を持つことができます!そして、「The Hand / 手」でも見られるように、ムスリムの女性はスカーフで頭髪を隠さなくてはいけません。服装に関しては自由なイスラム国もありますが、イランは特に戒律が厳しく、肌と体のラインが出ない「チャドル」という黒い布で全身を覆うのが一般的だそう。

そうした男性優位な考え方は、やはり子供が誕生する際にも影響します。男なら財産になるという考えから、男の子の方が好まれるのだとか。そんな根本的なイスラムの思想が、「The Hand / 手」に描かれている男女の価値にも深く関わっているように感じられます。

日本にいるとあまり触れる機会のないイスラム社会。「The Hand / 手」は、そんな未知なる世界へと導いてくれます。イスラム教に関する知識を少し持ってから本作品を観れば、ストーリーにより深く入り込め、考え方や生き方などに対する世界観も変わるかもしれません。

プログラムAI-Aより…
上映:8月5日(土)15:00〜

I-D●『Before Dawn / 夜明け前』 

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● Before Dawn / 夜明け前
監督:Bálint Kenyeres
ハンガリー / ドラマ / 2005 / 12:40

誰もいない夜明け前の小麦畑。その水面下では様々な期待と不安が広がっていた。でも儚い夢はなかなか叶わないもの…。

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『共産主義の空の下』

見渡す限り一面に広がる小麦畑から、静かに幕を開ける「Before Dawn / 夜明け前」。2005年度カンヌ映画祭の短編部門にノミネートされた作品だけあり、芸術的な映像と抜群のシナリオに、最初から最後まで心を奪われてしまいます。一言も台詞がないにもかかわらず、当時のハンガリー国民の切実な想いが力強く伝わってきて、それは言葉の無力ささえ感じてしまうほど。

第二次世界大戦に敗戦したハンガリーは、当時のソ連に国を占領され、その後1989年に共和国となるまでの約40年間、共産主義国として統治され続けました。そうした過酷で不自由な生活から逃れるために、リスクを負ってまで他国への移民を願った人々。「Before Dawn / 夜明け前」のストーリーの根底には、そうした歴史的背景が秘められています。

大辞林の辞書によると、共産主義とは、『財産の私有を否定し、すべての財産を共有することによって、平等な理想社会をつくろうという思想』のこと。20世紀に共産主義を採用した国家の多くは、共産主義によって、「皆が等しく自由に、豊かになる」と唱えながらも、「皆が等しく束縛され、貧しくなる」という最悪の結果をもたらしました。

自分の意思で将来を築くことができる、豊かで自由な国に生まれ育った現代日本人にとって、共産主義社会とは、教科書に出てくる程度の認識しかないかもしれません。それだけに、実際どれほど辛く大変な暮らしを強いられるものなのかを、完全に理解できなくても仕方がありません。

でも、そうした知識だけでも頭の片隅に置きながら、「Before Dawn / 夜明け前」を鑑賞すれば、本作品がいかに奥深く、完成度の高いものであるかが、より鮮明に見えてくるはずです。ぜひ、本作品の映像美とシナリオを通して、当時のハンガリー国民の切なる想いを感じとってみてください。

プログラムI-Dより…
上映:8月5日(土)11:00〜